イタリア・サッカー連盟(FIGC)は公式サイト上でユベントスに「勝点15剥奪」の処分を科した理由を公表しました。「ユーヴェ側が無実を証明できなかったから」との処分理由は『コンテ監督の八百長問題』を彷彿させるものとなっています。
ユーヴェが「疑惑は無実」と証明できないのでクロという判決
FIGC が発表した裁定理由(PDF)は36ページからなる “大作” です。裁定の理由は22ページ以降に記されており、要旨は以下のとおりです。
- "Libro Nero di FP" はあまりに露骨すぎ
- ケルビーニ FD でさえ(記述の内容を)否定できない表現をしたことは明白
- ユベントスが "Libro Nero di FP" の文書と距離を置かなかったことはスポーツへの忠誠という点で破壊的な意味を持つ
- 裁定対象はスポーツ法の違反(具体的には第4条1項と第31条1項)
- ユベントスの財務諸表は信憑性が低い
- スポーツ司法は一般司法とは違う
- 連盟検察からの再審請求がなかったのでユベントス以外のクラブへの判決は確定とする
"Libro Nero di FP" は『ファビオ・パラティチの黒いノート』とでも訳せば良いでしょう。
要するに「『経営および経済面での違反(スポーツ法第31条)』は他クラブと同様に立証できなかったが、ユベントスが『パラティチの黒いノート』に記された内容が事実ではないと示せなかったので『忠誠の義務違反(スポーツ法第4条)』を理由に厳罰に処す」と記載されています。
「FIGC の “びっくり司法” がまたも炸裂した」と言わざるを得ません。訴追する側が立証責任を果たさず、“訴追された側” に無実の証明を要求する『悪魔の証明』で処分が決定していたからです。
異議申し立てによる今回の上告審で突如浮上した「スポーツ法第4条違反」
まず、キャピタルゲインゲート問題が発覚した際に FIGC がユベントスなど11クラブを対象に処分を申し立てた根拠は「スポーツ法第6条および第31条の違反」でした。
- Codice di Giustizia Sportiva(スポーツ法)
- クラブの責任
- クラブは代表者の行動に対して直接的な責任を負う
- 懲戒を目的に同法2条2項で記されたクラブのために働く者の行動にも責任を負う
- 経営および経済面での違反
- スポーツ司法や管轄機関が求める書類を部分的にでも改竄・虚偽報告することは行政犯罪
- 帳簿の改竄で大会登録をした場合は別途記載する制裁の対象
- クラブの責任
しかし、2週間後の2022年4月15日に FIGC の裁判所は申し立てを棄却しています。
このケースで再審が認められるのは「スポーツ法第31条に違反する証拠が見つかった場合」でしょう。ところが、判決理由になったのは『(FIGC の検察が当初は起訴理由にしていなかった)スポーツ法第4条』でした。これだと「別件」です。
- Codice di Giustizia Sportiva(スポーツ法)
- 一般的な義務規定
- 同法2条で言及された人物は法令・規則・FIGCの内規・および連盟規則を遵守し、スポーツ活動に関わるすべての関係において忠実・公正・公平の原則を守る義務がある
- 経営および経済面での違反
- スポーツ司法や管轄機関が求める書類を部分的にでも改竄・虚偽報告することは行政犯罪
帳簿の改竄で大会登録をした場合は別途記載する制裁の対象
- 一般的な義務規定
しかも、今回の処分理由は「主にスポーツ法第4条1項と第31条1項」と記されており、第32条2項は外れる扱いとなっています。
ユベントス側は公式サイト上で CONI (イタリア五輪委員会)に上告する意向を表明しているため、最終的な結論が出るまでにはもう少し時間を要することになると思われます。
FIGC の “びっくり判決” は前例がある
FIGC が『トンデモ判決』を下した例は過去に存在します。その1つがコンテ監督の八百長問題でしょう。
コンテ監督はシエナ(当時セリエB)の指揮官だった際に八百長に関わった選手が「コンテも知っていた」と発言したことで八百長問題に巻き込まれ、身の潔白を証明することが求められました。
後に民事訴訟では「関与は認められない」と無罪になるのですが、FIGC は2012年夏に「コンテは八百長に関与しなかった証拠を示せなかったので10ヶ月の資格停止」と有罪判決を下しています。
注)コンテ監督は “談判” で資格停止処分は4ヶ月に軽減
FIGC の法治姿勢は10年前と何も変わっていないのです。イタリア・サッカー界が地盤沈下に見舞われるのは自分たちが蒔いた種が原因と言わざるを得ないでしょう。
『キャピタルゲインに関する規則』が必要であるなら、“規則を制定する権限を有する FIGC” が職責を果たすことが先です。「職務を果たしていない FIGC の運営方針を CONI が容認するのか」が次のポイントになると思われます。