相手の守備ブロックを崩すには「相手を縦か横に引き伸ばすプレー」が効果的です。その1つである『ボヌッチ選手の精度の高いロングフィード』を 2019/20 セリエA第17節サンプドリア戦から紹介することにしましょう。
■ ロングフィードで「DF の裏」を狙った場面
該当の場面は前半10分すぎに訪れました。その時の状況は以下のとおりです。
まず、ダニーロ選手が右サイド(のサイドライン際)でボールを持ったのですが、縦へのパスコースもドリブルコースもない状況でした。
縦パスの受け手となるディバラ選手とラビオ選手にはマークが付き、ピアニッチ選手への横パスも不可能。ドリブルを仕掛けてもヤンクト選手との1対1を強いられるため、「味方のセンターバックに戻して作り直すこと」が現実的な選択肢でした。
■ ボヌッチにまでパスを回すと、ピッチ上の状況に変化が生じる
そのため、ダニーロ選手は右 CB のデミラル選手に戻すことを選択。デミラル選手が左 CB のボヌッチ選手に展開すると、ピッチ上では状況が “微妙に” 変化していました。
ボールが(ユベントスの右サイド)から左サイドに動いたため、サンプドリアの守備ブロックも全体的に右へとスライドします。
この時に、ディバラ選手のマークがボランチ(= リネティ選手)から左アタッキングハーフ(= ヤンクト選手)に変わったことに加え、DF ラインとのスペースが大きくなったことを突いたディバラ選手が走り出します。
顔を上げて瞬時に状況を把握したボヌッチ選手はワンステップで GK と DF ラインの間にボールを落とすフィードを供給し、一気に攻め込むという流れです。第16節ウディネーゼ戦の先制点もこの流れでしたから、“デジャビュ” と言えるでしょう。
■ 背後のスペースが気になると、DF ラインを高く設定できない
「正確なキック精度」を持った DF が存在すると、相手の DF ラインの裏に存在するスペースを有効に使えるという利点が存在します。
- 背後のスペースをケアすることを優先すると、DF ラインを高く設定しにくくなる
- 『ハイライン+ハイプレス』を選択しても、正確なロングフィードを供給されると守備のために帰陣を強いられる
つまり、「相手の出足を牽制できる」という効果があるのです。最終ラインを高く設定できなければ、それだけ守備ブロックは縦に間延びすることになります。それだけライン間でパスを受けやすくなるのですから、『DF の裏を狙う動き』と『精度の高いキック』の組み合わせは有用なのです。
ただ、効果を発揮するための条件があることも事実です。
「DF ラインの裏にスペースがあること」が前提条件ですし、「パスが出ない状況が続いても献身的な働きを継続できる受け手」と「精度の高いキックの持ち主」を同時に出場させていなければ効果が得られないからです。
得点力を上げるには相手の守備ブロックを引き伸ばしてスペースを作り出すことが欠かせません。サッリ監督が攻撃力を高めるためにチームをどのように成熟させていくのかに注目です。