イタリア・セリエAでは12月24日から冬季中断期間に入りましたので、この機会にユベントスのピルロ監督が「2020/21 シーズン前半戦」で用いた基本フォーメーション・選手起用・改善点を整理することにしましょう。
■ 守備時は 4-4-2、攻撃(=ポゼッション)時は 3-1-4-2 の可変型
まず、謎に包まれていたピルロ監督が用いる戦術フォーメーションは「4-4-2 と 3-1-4-2 の可変型」と言えます。
他のチームと一線を画しているのは「攻撃時に可変する 3-1-4-2 が2パターン存在する」という点でしょう。つまり、「どちらの 3-1-4-2 が試合で使われるかは先発メンバーを見るまで判断できない」状況にあるのです。
では次に、守備時と攻撃時で役割が大きく変わる DF と MF の選手起用に対する制約を整理することにしましょう。
■ DF は4選手、WG としてプレーする選手によって他3選手の配置が決まる
ユベントスのトップチーム登録されている DF の適性ポジションは下表のように整理できます。
左 | 中 | 右 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
WB | SB | CB | CB | CB | SB | WB | |
キエッリーニ | 〇 | 〇 | |||||
デ・リフト | 〇 | 〇 | 〇 | ||||
A・サンドロ | 〇 | 〇 | △ | ||||
ダニーロ | △ | △ | △ | △ | 〇 | 〇 | |
クアドラード | △ | △ | 〇 | 〇 | |||
ボヌッチ | 〇 | ||||||
デミラル | 〇 | 〇 | 〇 | ||||
ドラグシン | △ | △ | △ | ||||
フラボッタ | △ | △ |
守備ブロックを構築する際は 4-4-2 になるため、DF は4選手で要求される能力は次のようになります。
- ウィングバックを兼任するサイドバック
- 守備時:サイドバック
- 攻撃時:ウィングバック(≒ ウィンガー)
- センターバックを兼任する兼任するサイドバック
- 守備時:サイドバック
- 攻撃時:3バックでの左右どちらかのセンターバック
- 配置先:『Ⅰ』のサイドバックの逆サイド
- センターバック(1人目)
- 守備時:4-4-2 のセンターバック
- 攻撃時:左右どちらかのセンターバック
- 配置先:『Ⅰ』のサイドバックの隣
(→『Ⅱ』のサイドバックの逆サイド)
- センターバック(2人目)
- 守備時:4-4-2 のセンターバック
- 攻撃時:3バックの中央を担当
- 配置先:4バック時の左右は「サイドバックの役割」に依存
『ウィングバックを兼任するサイドバック』が「右サイド(≒ クアドラード選手など)」なのか「左サイド(≒ A・サンドロ選手など)」なのかで選手起用の優先度が変わって来ます。
現状は「クアドラード > A・サンドロ > ダニーロ」が『WB 兼 SB』の序列です。そのため、クアドラード選手が先発時は『右 WB 兼 SB 型』、欠場時は『左 WB 兼 SB 型』になっていると言えるでしょう。
■ 中盤 MF も『WB 兼 SB』がどちらのサイドにいるのかで並びが変わって来る
次に、ユベントスの現 MF 陣の適性ポジションは次のとおりです。
4- "4" -2 | 3- "1-4" -2 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
内 (2) |
外 (2) |
4番 (1) |
8番 | 10番 | WG (1) |
|
アルトゥール | △ | 〇 | △ | |||
ラムジー | △ | 〇 | 〇 | |||
マッケニー | 〇 | 〇 | 〇 | |||
キエーザ | 〇 | 〇 | ||||
ラビオ | 〇 | △ | △ | 〇 | △ | |
ベンタンクール | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
ベルナルデスキ | 〇 | △ | 〇 | |||
クルゼフスキ | 〇 | 〇 | 〇 | |||
クアドラード | 〇 | △ | 〇 | |||
ポルタノーバ | △ | △ | △ | |||
ケディラ | 〇 | 〇 |
MF 陣の役割は「守備時の 4-4-2」と「攻撃時(=ポゼッション時)の 3-1-4-2」の中盤を両立させることです。そのため、要求される役割は以下のようになります。
- 試合を組み立てるレジスタ
- 守備時: 4-4-2でダブルボランチの一角
- 攻撃時: 3-1-4-2 でのレジスタ役
- ウィンガーとしてプレーする MF
- 守備時: 4-4-2 のサイドハーフ
- 攻撃時: 3-1-4-2 でのウィンガー
- 配置先: 『WB を兼任する SB』の逆サイド
- シャドーの役割が求められるサイドハーフ
- 守備時: 4-4-2 のサイドハーフ
- 攻撃時: 2トップの背後で “シャドー” の役割
- 配置先:『WB を兼任する SB』がいるサイド
→ サイドライン際のレーンを開けられることが必須
- ザ・セントラル MF
- 守備時: 4-4-2でダブルボランチの一角
- 攻撃時: 2トップの背後で “シャドー” の役割
中盤 MF は『レジスタ役を担う選手』を除く3選手が『WB を兼任する SB』と共に FW の背後で 3-1-4-2 の『4』を形成することが求められるポジションです。
サイドハーフの選手は「ウィンガー型」と「ハーフスペースでのプレーが求めらるシャドー型」の双方が必要となる上、左右どちらに配置されるかは「『WB を兼任する SB』がどちらのサイドにいるのか」によって変化します。
そのため、中盤 MF は「選手がいるようでポジション適性を考えると人員不足は否めない」と言えるでしょう。
■ 改善点1: 相手が 5-3-2 の守備ブロックで中央のスペースを封鎖して来た場合
ピルロ監督が改善しなければならない点の1つは「5-3-2 のような守備ブロックを築かれた際の崩し」です。ピルロ監督のチームは攻撃時に 3-1-4-2 の陣形になるため、相手が 5-3-2 のように配置すると決め手を欠くことになるからです。
- ユベントスの2トップ
- 相手の3バック(または4バックの CB)がマーク
- 相手 CB との肉弾戦や空中戦で勝てる選手が欠かせない
- 2シャドーの位置に陣取る MF
- 相手 DF と MF の間でボールを引き出して変化を付けれるのが理想
- 相手 MF と睨み合う状況では不十分
- 大外のレーンで幅を取るウィンガー(またはウィングバック)
- (サイドを突破して)クロスやカットインが期待される
- 対峙する WB や SB に正面で向き合われると選択肢が限定されすぎてしまう
ピルロ監督のユベントスは「ビルドアップでのプレス回避力は高い」と言えます。ただ、サッリ監督の時と同じで「押し込んだ後のフィニッシュ」に問題を抱えています。
“爆撃機” がいないのですから、ユベントスの攻撃を(サイドライン際からの)『アーリークロス』に限定できれば脅威はそれほどありません。後半戦はマッケニー選手も監視対象になると予想されるため、「崩し」で結果を出せないと無冠の可能性は現実味を帯びることでしょう。
■ 改善点2: 『3バック+レジスタ』でのカウンター対策
もう1つの改善点は「カウンター対応」です。ビルドアップ時にパスカットをされたり、相手の守備ブロックに引っかかってしまった場合に「レジスタの両脇」や「DF ラインの背後」に大きなスペースが存在する『ゲームモデル』を採用していることが理由です。
これは「システムが抱える問題」ですから、誰が監督でも起きることです。ただ、「 “カバーし切れないスペースを突かれた攻撃” を受けた際にどういう優先順位で守るのか」は監督の手腕によって変わって来ます。
フィオレンティーナ戦での「CB の間に縦パスを通された上、抜け出した相手 FW にスピードで置き去りにされました」では話になりません。
『3バック+レジスタ』で相手のカウンターに対応する前提なら、それに適した選手を重点的に起用する必要があると言わざるを得ないでしょう。成熟させる必要があるチームに対し、ピルロ監督がどのように手を加えるのかに注目です。