サッリ監督が「6選手に放出の可能性がある」と言及したことで放出候補にスポットが当たるユベントスですが、フロント陣は「ディバラ選手の放出」に執着しています。その理由を説明することにしましょう。
■ “危険水域” に足を突っ込んでいるユベントスの経営状況
ユベントスのフロント陣が「今夏でのディバラ選手の放出」に異様なまでの執着心を見せている理由は「経営の現状が “危険水域” に入ってしまっているから」です。
『カルチョ・エ・フィナンツァ』は「現時点(= 2019年8月12日時点)でのユベントスの選手総人件費の値」を下表のように見積もっています。
2019/20 | 2018/19 | |
---|---|---|
選手人件費 … (A) | € 414.1m | € 345.3m |
経済収支 | € 50.7m | € 117.9m |
ローン費の回収 | € 0 | € 23.5m |
売上高予測 | € 500m | € 460m |
総売上予想 … (B) | € 550.7m | € 601.4m |
(A) / (B) | 75% | 57% |
サッカークラブにおいて、人件費は売上高の 50〜70% が適正値と言われています。人件費が低すぎると選手の年俸が “何らかの理由” で低く抑えられていることを意味しますし、逆に高すぎると年俸がクラブの経営を圧迫していることになるからです。
ユベントスは 2018/19 シーズンの帳尻を合わせるため、6月30日までにスピナッツォーラ選手などの売却を行いました。
しかし、今夏に獲得した選手の人件費が決算に計上されるのは 2019/20 シーズンからです。選手の人件費が売上高に占める割合は 75% に達している状況は明らかに “危険水域” であり、会計上理由からも選手放出が強いられることになっているのです。
■ ディバラを売却すると、“当面の危機” は回避できる
フロント陣の目論見どおりにディバラ選手を他チームに売却すると、人件費などは以下のように変化します。
2019/20 | ディバラ売却時 | |
---|---|---|
選手人件費 … (A) | € 414.1m | € 395m |
経済収支 | € 50.7m | € 100m |
ローン費の回収 | € 0 | € 0m |
売上高予測 | € 500m | € 500m |
総売上予想 … (B) | € 550.7m | € 600m |
(A) / (B) | 75% | 66% |
まず、ディバラ選手に要する「人件費(= 減価償却費と税込年俸)」が削減されます。次に、「移籍金」から「残りの減価償却費」を引いた額が『経済収支』に加算されます。
仮にディバラ選手が6500万ユーロで売却すると、売上高は約6億ユーロになり、選手の人件費は4億ユーロをわずかに下回ります。その結果、選手の人件費が売上高に占める割合は 66% となり、危険水域である 70% を下回ります。
要するにディバラ選手1人を放出するだけで、当面の危機は回避できるのです。だから、フロント陣がディバラ選手の放出に執着していると言えるでしょう。
■ “ディバラを売却しただけ” では会計的にイカルディを獲得することはできない
「ディバラを売却してイカルディを獲得」と希望的観測を報じるマスコミも存在しますが、実現することは会計的に不可能です。
イカルディ選手を「移籍金5000万ユーロの5年契約」で獲得した場合、年間の減価償却額は1000万ユーロです。また、年俸で700万ユーロを提示した場合、税込で約1300万ユーロの支出が “新たに” 必要となります。
つまり、選手人件費が「2300万ユーロ追加」されることとなり、€ 418m となるのです。一方で、ディバラ選手売却後の総売上高 € 600m は不変です。この場合は『人件費が売上高に占める割合』は 70% になるのですから、イカルディ選手の獲得は極めて難しい状況にあります。
なぜなら、今季のユベントスは「実質的に解任したアッレグリ監督の年俸も負担しているから」です。
“隠れ債務” の存在は無視すべきではないですし、放出が進まない中でイカルディ選手の獲得を強行していしまうと『人件費が売上高に占める割合』が 80% になる恐れもあるのです。
減価償却を含めた総人件費で高額なのはボヌッチ選手(約1700万ユーロ)やイグアイン選手(約3200万ユーロ)です。こうした選手を切れないから、ディバラ選手に放出の圧力がかかっているのでしょう。
前任のマロッタ GM を経営手法を否定するなら、結果で示さなければなりません。現時点でそれができているとは言いがたく、歪みの方が深刻になっていると言わざるを得ないでしょう。現フロント陣が挽回できるのかに注目です。