戦術分析などを行っているイタリアの『ウルティモ・ウオモ』がユベントスの財政面に対し、「UEFA の管理下に置かれるのではないか」との指摘をしています。直近の決算状況では FFP による制裁が発動する可能性は十分にあると言えるでしょう。
UEFA の FFP (ファイナンシャル・フェアプレー)
FFP は「財政健全化」を目的に導入された制度です。現在は「過剰支出に対する抑制」と「持続可能な投資を推奨」することが主目的と言えるでしょう。
ユベントスが抵触するリスクがあるのは「評価期間中の支払超過」です。
- 評価期間: UEFA 主催の大会に参加する前年までの3シーズン
- 条件: 赤字は3000万ユーロまで
- スタジアム、練習施設、ユース育成、女子サッカーに投資した経費は除外
来季 (= 2020/21 シーズン)のチャンピオンズリーグに出場するには「2017/18 シーズンからの3シーズンで支払超過に陥っていないこと」が求められます。
ただ、ユベントスの決算は「2017/18 シーズン以降は赤字」となっており、厳しい状況にあると言わざるを得ないでしょう。
パラティーチ CFO の発言力に比例する形で赤字額が増大
ユベントスの財務決算の数値は下表のとおりです。
売上高 | 事業費 | 償却費 | 当期損益 | |
---|---|---|---|---|
2014/15 | 348.2 | 263.9 | 66.8 | 2.3 |
2015/16 | 387.9 | 300.1 | 78.2 | 4.1 |
2016/17 | 562.7 | 400.7 | 95.0 | 42.6 |
2017/18 | 504.7 | 383.3 | 122.8 | (19.2) |
2018/19 | 621.5 | 458.5 | 178.3 | (39.9) |
2019/20 【前期】 |
322.3 | 260.9 | 99.5 | (50.3) |
ナポリからイグアイン選手の強奪に動いたのが2016年夏。そこから補強で獲得した選手の移籍金が減価償却される償却費は増加の一途です。
特に、今季は「半年分の償却費」が「2016/17 シーズン全体の償却費」を上回っており、拡大路線に突き進んでいると言えるでしょう。
『拡大路線』を選択することがダメな訳ではありません。なぜなら、クラブの経営規模を拡大しつつ、当期損益を「黒字」で終えれば良いからです。しかし、「クラブ規模は拡大したが、赤字額も増加した」では問題です。
2019/20 シーズンが新型コロナウイルスの影響でストップしていなかったとしても、ピッチ上での収支は「1億ユーロ超の赤字」だったことでしょう。(CL を制覇していた場合は除く)
そのため、岐路に立っていることは否定できないのです。
2020/21 シーズンに “王朝” が瓦解することになる恐れ
UEFA は「2020/21 シーズンは FFP を一時停止する」との意向を示しているため、来季のチャンピオンズリーグ参加に支障が出ることはないでしょう。しかし、本当に怖いのは「2021/22 シーズン」です。
- 2021/22 シーズンの FFP (予想)
- 評価期間: 2017/18、 2018/19、 2020/21
- 条件: 赤字は3000万ユーロまで
- スタジアム、練習施設、ユース育成などへの支出は対象外
企業活動が存続する限り、「2019/20 シーズンの決算」は残ります。ただ、どのクラブも収益を大幅に悪化させることが濃厚であるため、「2019/20 シーズンの決算数値」は “ノーカウント” という扱いで処理されることが現実的です。
そうすることで FFP を遵守してきたクラブが UEFA の主催試合から締め出されることを回避できるからです。(多くのクラブも支払超過を避けるために 2017/18 や 2018/19 シーズンの運営をしている)
しかし、ユベントスは 2017/18 シーズン以降の決算は赤字が増加しています。スタジアムや練習場を建設しましたが、それらの支払いは「分割払い」のはずですから、赤字額が増える要因にはなりません。
「大型補強(の移籍金)」と「(新加入選手の)高年俸」がクラブの財政を圧迫しているのです。クラブの支出を上回る成績をピッチ上で出せていれば説得力はありますが、サッリ監督が率いている現状では夢物語です。
そのため、チームの瓦解は現実に起こり得ることと言えるでしょう。
インテルとの立ち位置が入れ替わっても不思議ではない
インテル・ミラノの絶頂期は “トレブル(3冠)” を達成した 2009/10 シーズンでした。その後は FFP の導入によって累積赤字に苦しめられて来たのですが、ユベントスが同じ道を辿らないとは言い切れません。
- 人件費は年々増加中
→ 当期損益の赤字額も拡大中 - クラブに大きな収益をもたらす若手有望株選手は 2018/19 シーズン中に売却済み
→ 例: アウデーロ、スピナッツォーラなど - (マロッタ GM を切ったため)フロント陣に “プロ” がいない
- 偏重起用で選手の市場価値を下げたところに新型コロナの悪影響が加算
ネガティブな要素が非常に多い状況ですし、今季(= 2019/20 シーズン)の給与カットだけでは「焼け石に水」であることが否めません。
財政面が “火の車” であることには変わりはないため、ユベントスのフロント陣が予想外の悪環境の中でどのような経営手腕を見せるのかに注目です。