西野朗監督率いるサッカー日本代表が3バックの導入を本格化させる中、選手からは「ユベントスをモデルにしている」との発言が出ています。
実際に日本代表が “ユベントスのような3バック” を導入した場合、「狙った効果」を発揮することができるのかを推測することにしましょう。
結論
最初に結論を述べますと、「目的意識が異なるため、堅牢さを再現することはできない」と言わざるを得ません。
ユベントスは『守備の権化』を言われるほど、失点することを(極端なほどに)嫌うチームです。チームが持つ DNA という面もありますが、「リーグ最小失点のチーム」がセリエAでタイトルをほぼ獲得しており、現実主義的なユベントスは守備に意識を置いています。
つまり、ユベントスの3バックが堅牢なのは「守り切るための手段として3バックを導入しているから」なのです。
一方、日本代表が3バックを導入しようとしている動機は「攻撃(=ポゼッション)」です。また、守備時のリスク管理についての考え方も大きく異なるため、3バックがシステム的に抱える問題点を突かれ、守備網が崩壊する可能性があると言えるでしょう。
CB の脇にあるスペースを相手チームに狙われた際の対応策が定まっているのか
3バックを採用した場合、3人の DF でピッチ幅全体を守ることは不可能です。システム的な弱点ですので、相手チームはそこを突くことで守備陣を撹乱しようとするのです。
- ユベントスの対処策:
- WB が DF ラインに下がり、5バックを構成
- 相手 SB のクロスやアーリークロスは容認の守備体系
- 日本代表の場合:
- 可能な限り、3バックを堅持
- WB の背後は CB がケアを行う
ユベントスは空中戦と1対1に強い CB を擁していたため、相手の攻撃を「アーリークロス1択」にすることを念頭に置いた守り方をしていました。WB の背後を突かれ、CB が釣り出された状態で「シュートとパスの2択」になるより失点の確率を低くできるからです。
一方、日本代表は「3バックの状態を堅持すること」を監督が指示しているため、危険なゾーンを CB がカバーする形態になると予想されます。WB ではなく、CB が消耗する戦術を採ると「試合終盤に CB の足が止まるリスク」を念頭に置いておく必要があるでしょう。
「高精度のロングフィード」がユベントスの基本戦術
次に、ユベントスはポゼッション型のチームではありません。リーグ戦では圧倒的な実力差があるため、そのように映りますが、基本的に守備のチームです。
3バックを主体としていた際、ユベントスの攻撃を牽引したのはロングフィードです。「高精度のキックを持つボヌッチ選手」と「超高精度のキックを持つピルロ選手」の2段構えで、サイドで上下動を繰り返すことが可能なリヒトシュタイナー選手を使って相手を消耗させていたのです。
後方に必要なメンバーを残し、精度の高いキックを活用したクロス攻撃で点を狙うという攻めが基本形でした。
ポゼッション型のチームなら、ショートパスを主体にした攻撃が軸になるでしょう。
日本代表は「ポゼッション重視」の姿勢を打ち出していますが、その場合は『プレスへの耐性』が必須となります。ビルドアップ時に相手のプレスを受けてボールロストをしてしまうと、カウンターの餌食になるため、この点に細心の注意を払う必要があるからです。
「DF がデュエルで勝れば、守備は OK」という考えは危険
(5バックにならず)3バックを維持したいのであれば、DF がデュエルで勝つだけでは不十分です。味方の FW が相手 DF にプレスをかけてデュエルに持ち込むなど、攻撃陣も汗をかくことが要求されるからです。
前線がプレスをかける仕事をサボると、守備の枚数が足りなくなるため、結果的に DF 陣は後退を余儀なくされます。W杯で対戦する相手は “個の力” という点で格上ばかりですので、ハードワークに否定的または消極的な選手を起用することはリスクが高いと言えるでしょう。
ユベントスではテベスやマンジュキッチといった CF が前線から積極的にプレスを敢行しています。同じ仕事ができる FW を起用することは日本代表でも必須と言えるはずです。
アッレグリ監督は「守備での貢献度が低い選手を2人同時起用は厳しい」と認めており、この “忠告” をどれだけ聞き入れるかで堅牢さが決まると断言しても過言ではないのです。
ポゼッションなど攻撃に重きを置いた3バックで参考にするなら、ラツィオやアタランタの方がお手本となるでしょう。攻撃志向とデュエルを両立させたいのであれば、ガスペリーニ監督が率いるアタランタが指標となるはずです。
目指す方向を間違えるとチームが空中分解するだけに日本代表がどこを向いてチームを構築しようとしているのかに注目です。