2019/20 UEFA チャンピオンズリーグ・ラウンド16のリヨン戦に 1-0 で敗れたユベントスですが、デ・リフト選手が一時的に不在だったことを失点の理由する見解が出ています。これは責任転嫁であり、問題の本質を隠していると言わざるを得ないでしょう。
■ サッリ式の守備体系では「3バック脇のスペースが生まれること」が問題
まず、サッリ監督が採用している『ゾーンディフェンス』には今季のラツィオ戦で発覚した “欠陥” が存在します。そのため、「そこを突く準備をしたチームに決定機を作られてしまう」という問題があるのです。
例えば、前半16分すぎのシーンです。リヨンは右サイドを攻めていましたが、突破することはできずにB・ギマランイス選手が左サイドに展開。
サイドラインにボールが出たため、ユベントスは右サイドのダニーロ選手(とクアドラード選手)が対応へと向かいます。
ここでポイントは「右 SB と右 CB 間のスペース(= 右のハーフスペース)が空いている」という点です。スペースが空く理由は以下の “規律” が定められているからでしょう。
- 相手チームがファイナルサードのサイドライン際でボールを保持した場合
- ボールに近い側の SB: ボールチェックに向かう
- 2人の CB: ゴール中央の所定ポジションに陣取る
- 逆サイドの SB: 2CB と共に最終ラインの一角を形成
この規律で動くと、SB がサイドライン際に釣り出された際に残っている3人の DF は “中央で” 3バックを作ることになります。つまり、左右のハーフスペースは「相手チームが使い放題」という状況なのです。
3バックを採用した際の泣き所は「3バック脇のスペース」ですが、サッリ監督は4バックを採用しているにも関わらず、特定条件下ではこの問題が発生しているのです。失点のペースが低くならないのはこうした原因があるからと言えるでしょう。
■ リヨン戦での失点シーン
では、リヨン戦での失点シーンを確認することにしましょう。この時はデ・リフト選手が止血中だったため、ダニーロ選手が代役としてプレーしています。
つまり、デ・リフト選手の不在が影響したなら、「ダニーロ選手か(ダニーロ選手の役割を一時的に引き受けていた)クアドラード選手が守備の対応ミスをしていること」が条件です。試合は31分のスローインから動きました。
スローインのボールを受けたアワール選手はスローワーのコルネ選手にボールを落とし、自らはクアドラード選手の裏を目掛けてスプリントを開始します。
クアドラード選手は「コルネ選手のドリブル突破」を警戒。しかし、パスコースまでは消し切れなかったため、背後のスペースにボールを出されてしまいます。
ボールを受けたアワール選手にはベンタンクール選手がマークで付いて来たものの、加速による持ち出しでさらに侵入することを許す形となります。
右 CB のダニーロ選手がゴール中央で3バックを構成するためにスライド中であり、アワール選手は空いたハーフスペースを利用してペナルティーエリア内にまで侵入。
クロスを上げ、最後はトゥザール選手が合わせてリヨンが先制点を決めました。
ダニーロ選手がクアドラード選手の変わりにコルネ選手を見たとしても、アワール選手を目掛けたパスは通っていたでしょう。なぜなら、両選手の守備力は同等と言えるからです。
また、デ・リフト選手が守っていても、アワール選手にクロスを上げられていたはずです。クロスを防ぐには自らの持ち場(= 役割)を捨て、イエロー覚悟でペナルティーエリア手前で潰す必要があります。しかし、この守り方は不可能でしょう。
ボールホルダーに対してチェックに行く機会がなかったのですから、右 CB が誰であっても失点を喫していた可能性は高かったという結論にならざるを得ないのです。
■ 10人で守ることは可能だが、満たさなければならない条件がある
もちろん、10人の状態で守り切ることは可能です。ただし、そのためには “満たさなければならない条件” があります。
- 10人全員がハードワークすること
= フィールドプレーヤーの守備免除はあり得ない - 4-4-1 の守備ブロックを築き、「ポゼッション」と「大外のレーン」を放棄
- 攻撃は「ロングカウンターをやり切る」
要するに、アッレグリ監督が昨季の UEFA CL 第1節バレンシア戦で見せたことを再現すれば良いのです。
ただ、サッリ監督のチームにはできません。両 SB がサイドライン際でボールを持つ相手選手の対応に向かうため、『ハーフスペースのレーン』を捨てているからです。結果的に「守備ブロックに自分たちで穴を開けている」のですから、失点が増えるのは当然のことと言えるでしょう。
本気で対策する強豪チームを相手に上回ることができるだけの引き出しをサッリ監督が持っているのかに注目です。