チャンピオンズリーグでアトレティコ・マドリード相手に見事な逆転突破を決めたユベントスですが、プロビンチャのアウェイ戦では内容が思わしくありません。プレスに苦しむ場面が散見されるため、その理由を考察することにしましょう。
1:プレスを回避するには「システムのミスマッチ」か「個の能力」のどちらかが不可欠
相手チームのプレスを回避するには「ミスマッチを起こす」か「個の能力で突破する」かのどちらかです。そうすることで数的優位を手にするため、プレスを無効化することができるからです。
アトレティコは「4-4-2 のゾーンディフェンス」を軸に置いているチームであるため、「3-5-2 でビルドアップをする」ことで『ミスマッチ』を起こすことができました。だから、アトレティコの “強烈なプレス” が空回りすることになったのです。
しかし、システムのミスマッチを作ることができないチームが相手だと、「個々の選手がプレス耐性をどれだけ持ち合わせているか」が極めて重要になります。
ユベントスは『プレス耐性を持った選手』の絶対数が不足しているから、マンツーマンでビルドアップを阻害するチームプレーに慣れたプロビンチャのチームを相手に苦戦する傾向が如実に現れていると言えるでしょう。
2:ユベントスのビルドアップを阻害する効果的な策は「CB からの “ステーションパス” のルートを遮断すること」
相手にプレスをかける理由は「ビルドアップを阻害するため」です。ユベントスを相手にする場合は「CB から出されるステーションパスのルートを可能な限り遮断すること」で、ボール奪取の確率が高まります。
具体的な要求項目は以下のとおりです。
- マンジュキッチのポストプレーを阻害する
- CB の1人がマンツーマンで対処。もう1人の CB はカバーに回る
- ロナウドとディバラは高さが不足しているのでポジション確認に留める
- 中盤の3人には必ずマークを付ける
- ユーヴェのインサイドハーフはボランチが対応
- ピアニッチは中盤のレジスタかトップ下の選手が見る
- 高い位置を取る両サイドバックにもマークを付ける
- 3バックを使うチームなら、WB が担当
- 4バックなら、ウィングかアタッキングハーフが担当
- CF の選手がユベントスの CB に圧力をかけてボールを蹴らざるを得ない状況を作る
どのようなフォーメーションを採用していたとしても、上述の項目に対応することは比較的容易です。ディバラ選手やロナウド選手が中盤にまで下がった場合はボールを引き出されますが、彼らは上下動を何度も行える選手ではないため、“弊害” の方が大きくなります。
また、プレスを外されてゴール近くにまで迫られた場合はスペースを徹底的に消したゾーンディフェンスに切り替えることが重要です。
「ビルドアップ時にミスを誘発させることができなかった場合はプレスの継続に固執しない」という “割り切り” を持って守られると、ユベントスは苦境に立たされることになるでしょう。
3:個々の選手が相手のプレスを回避するために要求されている能力
『プレス耐性』という言葉で表現されている「相手チームからのプレスを回避する能力」をまとめると、次のようになります。
- 情報収集能力と戦術眼
- 首を振り、短時間で多くの情報をインプット
- 大きな絵(とゲーム知性)を見る能力
- ボールを受ける時の体勢
- 例1:相手から遠い方の足でボールを操作
- 例2:相手にパスコースを誤認させるボディフェイント
- 狭いスペースに相手を引きつけ、そこを突破する能力
- 例1:キックフェイントとターンの組み合わせ
- 例2:俊敏性または肉弾戦を用いたドリブルで打開
- 斜めのドリブルセンス
- 正しい時にボールを放すビジョン(= 球離れの良さ)
すべてを兼ね備えていれば理想的ですが、そのような選手はごくわずかです。したがって、「1から3のいずれかを備え、4と5もあれば望ましい」ということになります。
具体的な選手名を出すと、1はピルロ選手やブスケツ選手。2はクロース選手。3はポグバ選手やモドリッチ選手になるでしょう。こうした選手が多いほど相手のプレスを回避しやすくなるのですが、ユベントスの場合はそうした選手が少ないことが問題なのです。
4:なぜ、アッレグリ監督のユベントスは『プレス耐性を持った選手』の数が少ないのか
ユベントスに『プレス耐性を持った選手』が少ないのかと言いますと、アッレグリ監督が中盤 MF に求める要件の中に『プレス耐性』の項目が存在しないからです。
4-3-3(逆三角形型) | |
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4番 |
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8番 |
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10番 |
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ピアニッチ選手が『4番』に該当しますが、他の MF は基本的に『8番』の要件を満たす選手です。ここで問題になるのは「『8番』の選手は『プレス耐性』に関する要件がないこと」です。
これでは「中盤インサイドハーフにマークを付けられた時点でビルドアップ時のパスコースが消滅」することになります。
システム上のミスマッチを作れば、相手のプレスを回避することはできます。しかし、プロビンチャのチームはそれを折り込み済みですから、結局は「プレスを回避できる能力を持った選手がどれだけピッチ上にいるのか」に依存することになるのです。
パスコースの “駆け込み寺” として機能することが計算できる選手が中盤 MF に不足しているのですから、補強対象にしても良いと言えるでしょう。
5:2016/17 シーズンのレアル・マドリードを参考にすべき
ユベントスがアウェイ戦での試合内容を向上させたいのであれば、2016/17 シーズンのレアル・マドリードを参考にすべきでしょう。なぜなら、この時のレアルは相手チームからのプレスへの耐性を有していたからです。
- ダブル司令塔を左右に配置
- 右サイド:
- モドリッチ:司令塔・ドリブルでの突破役
- カルバハル:バランサー
- 左サイド:
- クロース:司令塔・バランサー
- マルセロ:ドリブルでの突破役
- 右サイド:
当時のレアルが世界屈指の『プレス耐性』を備えていた理由は「どちらのサイドででもプレスを回避できる状態だったから」です。相手の “弱いのサイド” から攻めることができますし、イスコ選手を起用すればパスコースをもう1つ増やすことも可能です。
こうした成功例が存在しているのですから、ポゼッションの内容を高めたいのであればピアニッチ選手をコンバートすることは不可避です。
エムレ・ジャン選手をアンカーに置き、カゼミーロ選手の役割を任せる。ピアニッチ選手はカンセロ選手と組み、両者は「クロース選手とマルセロ選手の関係性」を築く。これなら、右サイドでの構成力は向上するでしょう。
その上で左インサイドハーフに “ドリブルで相手をかわせる MF” を主力に据えることができれば、『プレス耐性』を持った中盤でできるはずです。来季から加入するラムジー選手がこの役割をどれだけ担えるかが大きな鍵となるはずです。
アッレグリ監督やサッリ監督は「司令塔をピッチ中央に配置すること」を好む指揮官です。ただ、対戦相手も対策を立てやすいため、プレスを回避できる選手が中盤で起用できないと苦戦を強いられることになるのです。
アッレグリ監督がどのようにチームを成熟させていくのかに注目です。