イタリアのサッカークラブが経営的な恩恵を受けていた『成長令』が撤廃されたと『スカイ・イタリア』が報じています。
カルチョ界は「2024年1月の移籍市場までは『成長令』の恩恵を受けられること」を期待したものの、その望みは断たれることになりました。他業種からの反発が強かっただけに結果は止むを得ないでしょう。
イタリアの『成長令』は「直近の2年以上をイタリア国外で生活していた者を新たに雇用する場合は所得税率を最大 50% 免除する(※ 最長5年)」というものでした。
サッカー界は「費用の大部分が選手に支払う年俸(と税金)」ですから、『成長令』の恩恵を最も享受する産業です。しかし、その『成長令』で不利益を被る立場の人々が “サッカー界” にもいます。
それは「イタリア国内でプレー中の選手(≒ イタリア人)」です。
- 年俸の予算1000万ユーロで獲得しようとした場合
- 年俸上限700万ユーロ弱:イタリア国外でプレー中(成長令の対象)
- 年俸上限500万ユーロ強:イタリア国内でプレー中(成長令の対象外)
編成責任者であるインテルのマロッタ CEO が『A』を優先的に獲得するのは当たり前。その一方でイタリア人選手のほとんどは『B』の立場であり、税制優遇措置の存在によって “1段格上の選手” との競争を強いられることになります。
だから、イタリアの選手協会は『成長令に反対』の立場を採っているのです。両者が相容れることはないでしょう。
特定の業界内で意見が二分している時は「業界外での支持」が重要ですが、『成長令』は “人件費よりも設備投資費や原材料費の方が負担額の大きい業界” からは評判の悪い税制優遇措置でした。
工場や店舗などの設備投資費、鉄道やバスの車両購入費、発電施設で用いる燃料費等は『成長令』の恩恵を享受できないのです。これではカルチョ界以外からの反発は避けられないでしょう。
陳情の段階では「カルチョは税金を多く払っている」との主張がありましたが、議会でその主張を展開するのは難しいと思われます。「インテルの未払税金は6700万ユーロだぞ!」と糾弾されてしまうからです。
インテルは「2023年6月30日時点で会計上の未払税金(Tax Payable)が6686万ユーロも残っている」と報告しています。
ちなみに、ユベントスがマロッタ GM 時に納めた法人税の最高額が約1100万ユーロ。“直近10年の決算が赤字続きでユベントスよりも売上高が少ないインテル” が『法人税』で7000万ユーロ弱も未払税金を計上することはあり得ません。
となると、インテルの未払税金は「コロナ禍で支払いが滞った選手年俸にかかる(クラブが選手に代わって支払っている)所得税の未納付分」でしょう。
『選手年俸の未払い』だと選手権から除外されてしまいますが、『税金の未納付』なら追納が普通は容認されるからです。
余談ですが、アッレグリ監督が「(若手有望株の多い)ユベントスは影響を受けない」との言及したのは “18歳でイタリア国外から引き抜いた若手有望株” は23歳で『成長令』の適用期限である「5年」に達するからです。
ユルディズ選手やハイセン選手は “トップチームに定着して昇給を狙う20代前半” で『成長令』による軽減税率の適用対象からは外れてしまいます。「下部組織をどれだけ投資しているか」で『成長令』への評価は変わってくるでしょう。