2025年夏にユベントスの GM に就任したダミアン・コモリ氏は「MLB オークランド・アスレチックスのビリー・ビーン GM が世に知らしめた『マネーボール』の手法を用いたチーム作りをしている」と評されています。
ただ、マネーボールにも「限界」があります。その手法で成果を残すには「マネーボールの問題点を認識した上でのチーム作りができるか」が問われることになるでしょう。

まず、2000年代初頭に MLB で一時代を築いたマネーボールとは以下の考え方に基づく戦略です。
- マネーボールとは
- 『弱者のシーズン戦略』: 資金力を背景に有力選手をかき集めて王朝を築く “栄光の歴史と伝統を持つ大都市の強豪球団” に対抗することが目的
- 野球を「相手に27個のアウトが取られるまで試合の終わらないスポーツ」と定義
- 「攻撃が終了する3アウトを消化する前に奪う得点(の期待値)を最大化すること」に注力
- 『自チームの得点期待値を最大にし、相手チームの得点期待値を最小にするための戦略』をセイバーメトリクス(統計学的指標)の観点から策定
- KPI は『安全進塁権』
この考えに基づく「チーム作り」と「戦い方」でマネーボールは成果を残し、世に知られることになりました。その結果、マネーボールの限界も認識されるようになったのです。
「マネーボールの限界」と「注意すべき点」について整理しておくことにしましょう。
1:マネーボールは主流派とは異なる異端
まず、当時(2000年代初頭)の MLB はヒット・盗塁・送りバントを軸にしたスモールベースボールが主流で、“安全進塁権を得られる四死球をリーグ平均よりも多く獲得できる打者” への評価は低調でした。
だから、「四死球で貯めた走者は長打で返す」という効率の良い攻撃で得点期待値を高める戦略を(貧乏球団でも)採ることができたのです。
状況としては「クロップ監督がリヴァプールにゲーゲンプレスを持ち込んだ当時」と同じです。
クロップ監督は「体格の良い屈強な選手による肉弾戦が主流のプレミアリーグ」に【ハイプレス】の概念を持ち込んだ “異端の指揮官” だったのです。
MLB のボストン・レッドソックスのオーナーがリヴァプールのオーナーを兼務していることは偶然ではないでしょう。
2: マネーボールは短期決戦には不向き
次に、マネーボールによるチーム作りが威力を発揮するのは「長丁場のレギュラーシーズン」です。
「得点期待値の最大化および失点想定値を最小化」を目的にチーム作りをしているため、上振れや下振れが色濃くなる短期決戦(=プレーオフやトーナメント)ではデータどおりの結果にはなりません。
【サッカー版マネーボール】だと「統計学的指標を用いて『シーズン全体でのゴール期待値(xG)を最大化する戦略』を制定する」と定義されるでしょう。
ただ、その手法で成果を残してもチャンピオンズリーグの決勝トーナメントでは「レアル・マドリードの理不尽なまでの決定力に屈する」という歴史と向き合うことも重要になります。
3: 資金力のあるクラブに追従されると後手に回る
そして、【マネーボール】が抱える最大の欠点は「資金力のあるクラブに『成功例』として追従されると優位性が消失してしまうこと」です。
レッドソックスやカブスに追従されたアスレチックスは埋没しましたが、リヴァプールは追い付かれる前にプレミア上位勢の資金力に匹敵するまでに経営面で成長を遂げました。
つまり、「マネーゲームを回避した独自性のあるチーム作り」が【マネーボール】には欠かせないのです。
また、サッカー界には「チームコンセプトの追従」だけではなく「主力選手の引き抜き」という野球界とは異なる経営リスクも存在します。
このリスク要素への対処策を「高給での引き留め」にすると本末転倒となるため、サッカーの場合は「クラブがチームに要求する競争力をどこに設定するか」が重要になるでしょう。
【マネーボール】では「ガラクタ」と評される “チームが採っている戦法では勝利貢献度の低い選手” に『他チームが評価している項目で好成績』を記録させて高値で売却する場面も描かれていました。
イタリア・メディアが「現在のユベントスの中では売却不可」と評する選手の中にも “ガラクタ認定されなければならない選手” は複数存在しています。
それらの選手への対応でコモリ GM がどれだけ【マネーボール】を実践しようとしているのかを推し量ることができるでしょう。2025/26 シーズンのユベントスがどのようなチームになっているのかに注目です。