3シーズン連続でトップチームの監督を解任したユベントスですが、クラブの思惑どおりの結果を残せる監督とそうではない監督がいることは事実です。その要因について言及することにしましょう。

■ 結果は監督の手腕だけで決まるものではない
監督への評価は「ピッチ上での結果がすべて」と言って過言ではないほど、成績で評価されます。ただ、チームが結果を残すためには『監督の手腕』だけではありません。以下の3点に分類できると言えるでしょう。
- クラブが定める目標と達成期限
- 監督のスタンスと指導スタイル
- 現有戦力と選手補強での調整
結果を残すにはいずれの要素も欠かせません。しかし、監督の采配はいつでも変更が可能ではあるものの、他の要素はシーズン中に変更が加えられることは稀です。
したがって、監督は『調整能力』という評価で判断されてしまう不運な立場にあると言わざるを得ないでしょう。
では、各項目について深掘りをしたいと思います。
■ クラブの身の丈にあった現実的な目標が設定されているか
まずは「クラブが現実的な目標を設定してるか」です。これはクラブの予算規模によって変動します。
ユベントスの場合だと「目標はスクデット獲得」、「達成期限は今シーズン」となるでしょう。現有戦力では極めて現実的な目標ですから、達成できなかった監督が職を追われるのは止むを得ません。
一方、もう1つの目標である「チャンピオンズリーグ制覇」は『長期的なプロジェクト』を前提とするため、達成期限は「少し先」に設定しておかなければなりません。これは成長を志す中堅クラブと同じ立場にあるからです。
アタランタが良い例ですが、プロビンチャに分類されるクラブが『チャンピオンズリーグ出場権』を確保するには“中長期的なプロジェクト” を動かして結果を残す必要があります。
ボトムハーフが定位置のクラブが大躍進を遂げても、資金力に秀でたクラブの草刈り場になってしまうのは目に見えています。したがって、そのような逆風に耐えるためにもクラブが定めるプロジェクトの達成期限は重要なのです。
■ 反復練習ばかりではトップレベルの選手はすぐに飽きる
良いプロジェクトを持っているクラブが次にするのは「良い監督の招聘」でしょう。ここで監督の『スタンス』や『指導スタイル』が問われることになるのです。
アッレグリ監督は『守備から組み立てる打算的なスタンス』を持つものの、『指導スタイルは選手が飽きない』という稀有なタイプです。退団した選手が「同じ練習ばかり」との不満を口にしていないことがそれを裏付けていると言えるでしょう。
サッリ監督は『理想とするポゼッションサッカー』が知られていますが、反復練習を何度も繰り返すため選手からの不満で(チェルシーやユベントスでは)チームが空中分解してしまいました。
トップチームでは選手個々の能力が高く、監督が要求するプレーは簡単にできてしまいます。
また、“トップチームにまで上り詰めた自らのプレースタイル” に絶対の自信を持っており、トップチームでの実績が乏しい指揮官のためにモデルチェンジをするメリットはありません。
トップチームでの実績を持たない理想主義の監督が結果が出なくなるのはそれが大きな要因です。
「サッリやピルロのために自分の選手キャリアを賭けてプレースタイルを変えよう」と考える主力選手がチームの大半を占めないとプレースタイルの変更は上手く行きません。『結果』と『アイデア』がなければ厳しいと言わざるを得ないでしょう。
■ 実際にプレーをするのは選手
前項と重複する部分もありますが、『クラブの素晴らしいプロジェクト』と『最高の監督』がいるだけでは不十分です。理由はピッチ上で実際にプレーするのは選手だからです。
クラブが進行したいプロジェクトに適した選手や監督が希望する選手が所属していれば理想ですが、現実世界はそう甘くはありません。
流行のポゼッション・サッカーをするなら、他のクラブから選手を引き抜かれる可能性が生じます。また、獲得したい選手は争奪戦となるでしょう。
また、選手から移籍希望が公言される可能性もあります。そのため、「移籍市場でのどのように振る舞うのか」は大事な要素です。
方向性はポゼッション志向で同じであっても、(他のクラブが簡単に真似できない)独自色があった方が結果は伴いやすくなります。これには「選手の適性を見極める監督の眼力」が重要となるため、采配以外での能力も評価されていると言えるでしょう。
ゲームでは選手の造反は起きませんが、現実世界のサッカー選手には感情があるためマネジメント能力が不足している監督は結果を残せないことは珍しくありません。自身を取り巻く環境に上手く適応し、変化できる監督が結果を残せる監督ではないかと思われます。