2018/19 シーズンのセリエAは5試合を残してユベントスがスクデット8連覇を達成しました。アッレグリ監督自身は5連覇となり、史上初の快挙を成し遂げています。
ただ、現状では限界に達しつつあります。そのため、アッレグリ監督を続投させるのであれば、「ポジショナルプレーに基づく攻撃的なポゼッションサッカー」を形作ることが条件と言えるでしょう。
1:アッレグリ監督の戦術スタイルと限界
アッレグリ監督が「世界最高の監督の1人」であることを否定する人はほとんどいないでしょう。それだけの実績を残しているからです。ただ、一方で限界も見え隠れしています。
- チーム作りは「スクラップ&ビルド」が基本
- ホーム&アウェイの対戦形式に強い
- 現実主義者でセリエAでは守備を重視
アッレグリ監督は現実主義者で、セリエAでは「最小失点のチームが優勝する可能性が極めて高い」との現状から守備に重点を置いた手堅いチーム作りを毎年行っています。また、トーナメント形式のコンペティションでも安定した成績を残しており、「実績は十分」と言えるでしょう。
ただ、問題もあります。それは『特定の選手に依存したチーム』になっていることです。
毎シーズンごとに「スクラップ&ビルド」をやっているのですから、チームに上乗せが期待できません。よりサイズが大きい石を入手し、毎シーズン積み直すことで「高さ」を出しているだけの状態なのです。
ナポリやアヤックスの “石のサイズ” はユベントスより小粒でしたが、プレーコンセプトによって『石垣』と化していました。ユベントスがチャンピオンズリーグを獲得するには『石垣』が必須であり、「現在のアッレグリ監督のやり方では限界」と言わざるを得ないでしょう。
2:ポジショナルプレーに活路を見出すしか術がない
アッレグリ監督が続投となるのであれば、「ポジショナルプレーに基づく攻撃的なポゼッションサッカーを形作ること」が条件です。なぜなら、この部分が欠けているから、内容が思わしくない試合が続くことになっていたからです。
ポジショナルプレーとは「チームが優位性を保てるためのポジションを取り続けること」です。攻撃面での意味合いが強いのですが、守備面でも使える言葉と言えるでしょう。
- ポジショナルプレー(攻撃時)
- 「ポゼッションサッカー」とも称される
- 目的は「得点しやすく、失点しづらい陣形を組む」こと
- 動き出し・パス・ドリブルを用いて相手の守備陣形を崩して決定機を狙う
- ポジショナルプレー(守備時):
- 「守備ブロック」を構築
- 目的は「中央のスペースを閉鎖し、失点する確率を下げる」こと
- 相手のポジションを見て、ブロックの位置を微調整し続けて効力を保つ
優位性には量的(= 数的)・質的(= 選手の能力値)・位置的(= 死角やライン間)の3種類が存在します。
守備ブロックは「中央のスペースに選手を集める」ことで『量的優位性』を確保する戦術です。また、守備陣に高さがあれば、それは『質的優位性』を意味します。また、撤退するほど死角となるスペースは少なくなるため、合理的と言えるでしょう。
この強固な守備ブロックを破るために、攻撃面でのポジショナルプレーが必要となっており、ユベントスは “ここに至るまでの段階” に問題を抱えていることが現状なのです。
3:相手にプレスをかけられると、自陣から脱出できずに “窒息” してしまうことがユベントスの課題
ポジショナルプレーで「得点しやすく、失点しづらい陣形を組もう」とした場合、次の3点で機能する『型』をチームとして有していることが条件です。
- 自陣(の深い位置)からのビルドアップ
- ハーフウェーライン前後での構築
- ファイナルサードでのフィニッシュ
グアルディオラ監督やサッリ監督が代表例ですが、ポジショナルプレーを志向するチームは GK に「足下の高い技術」を要求します。これは GK をビルドアップに組み込むことで、(最悪でも)4対3 となり、チームが数的優位性を保てるからです。
どのチームも「GK + 2CB + レジスタ」で “ロンド” を作ることは共通事項です。相手チームがプレスをかける中で前進できるチームは「戦術的な動き」をチームとして持っているからです。
しかし、ユベントスは「戦術的な動き」を持っていないため、パスの受け手となる選手がすべてカバーされた状態でビルドアップに行き詰まることとなり、一か八かでマンジュキッチ選手を目掛けて蹴り出すしか選択肢がなくなってしまうのです。
当然、相手も(苦し紛れのユベントスが採る選択肢は)分かっているのですから、結果として “窒息” してしまうのです。
4:フィオレンティーナ戦で見えた具体的な課題点
アッレグリ監督は 2018/19 セリエA第33節フィオレンティーナ戦でポジショナルプレーに挑戦しましたが、具体的な課題点も浮き彫りとなりました。
- 自陣(の深い位置)からのビルドアップ
- フィオレンティーナの守備網は突破可能
- 積極的なハイプレスが継続されず参考扱い
- ハーフウェーライン前後での構築
- ファイナルサードへの供給で問題は生じず
- カウンターへの対処が悪く、ピンチを頻繁に招く
- ファイナルサードでのフィニッシュ
- 『型』が整理され切っておらず、渋滞傾向
- ボール奪回のプレスに甘さが残る
中でも、「カウンターで決定機を頻繁に作られたこと」が気がかりな点と言えるでしょう。ただ、この問題はポジショナルプレーに限ったものではなく、チームが抱える戦術的な問題です。
対処策も明らかであり、大騒ぎする必要はありません。重要なのは「ポジショナルプレーに基づく攻撃的なポゼッションサッカーが可能」なことであり、一定の成果を実戦で得たことは評価項目と言えるでしょう。
アッレグリ監督が続投となるのであれば、「ポゼッション時における選手のポジショニングと動きの精度」を高めることが必須です。「その点でアッレグリ監督の “伸びシロ” があるか」を見極めることがフロント陣の課題なのです。
5:「ユベントスがカウンターに弱くなった」との印象が大きくなった理由
最後に 2018/19 シーズンのユベントスが「守備面で脆弱になった」との印象が残るようになった理由に言及しておくことにしましょう。原因は「カウンター対策に必要な人員を割いていないから」です。
- デル・ボスケ時代のスペイン代表:2CB +ダブルボランチ
- サッリ監督:2CB + SB + MF
- ユベントス:2CB + MF
ポジショナルプレーをするチームはカウンター対策に4選手を残しています。サイド攻撃に重きを置いていたデル・ボスケ監督のスペイン代表は「センターバック2人にダブルボランチの2人」、サッリ監督は「センターバック2人・サイドバック1人・レジスタ1人」といった形です。
しかし、ユベントスは「センターバック2人にピアニッチ選手の計3人」です。
両 SB はクロス攻撃のために高い位置を取り、マテュイディ選手(左 MF)は変化を付けるために前方へ。また、ケディラ選手(右 MF)はターゲットマンとしてボックス内に侵入するため、守備の人員不足が常態化しているのです。
“ハイプレス” を前提にしたチームがカウンター対策に4人を残していても、カウンターからピンチを招いていることが現状です。ハイプレスの強度と精度が低いユベントスが守備に3人しか残していなければ、どうなるかは火を見るよりも明らかと言えるでしょう。
「エムレ・ジャン選手を CB に入れると守備が安定する」のは「2CB + MF (= ピアニッチ)+エムレ・ジャン」となり、他のポゼッション型チームと守備の人員が確保できただけに過ぎません。
「革命」に相当する “変革” までは必要ありませんが、「精度の向上」と「戦術や動きの徹底」は必須です。今シーズンはまだ5試合残っていますので、アッレグリ監督が「ポジショナルプレーに基づく攻撃的なポゼッションサッカー」の片鱗をどれだけ見せることができるのかがポイントでしょう。
それを踏まえてユベントスのフロント陣がどのような判断を下すのかに注目です。