アトレティコ・マドリードに 0-2 で敗れて窮地に立たされていたユベントスですが、ロナウド選手のハットトリックで 3-0 の勝利を納めて逆転突破しました。試合ではアッレグリ監督の戦術も光っていましたので、この点を取り上げることにしましょう。
1:アトレティコのハイプレスを回避できるようには見えない 4-3-3
「最低でも2得点」、「勝ち抜けには3点差の勝利」が要求された 2018/19 UEFA チャンピオンズリーグ・ラウンド16のセカンドレグでアッレグリ監督は 4-3-3 を選択しました。
基本的な並びは「ファーストレグの時と同じ」で、ハイプレスに苦しんだ第1戦と同じ展開になることが予想されました。
マドリードでの試合はアトレティコがコンパクトな 4-4-2 の守備ブロックを敷いたため、パスの受け手となる選手がマークを背負うこととなり、パスコースが喪失。その結果、プレスの餌食になり、カウンターを受け続ける悪循環を招いてしまったのです。
「この状況を回避すること」がセカンドレグでは要求されていたのですが、アッレグリ監督は “満点の回答” を用意していたと言えるでしょう。
2:エムレ・ジャンが3バックの一角に加わったことで、「2トップのプレス」が無効化
アッレグリ監督が『戦術』として用意していたのは「エムレ・ジャン選手を攻撃時は3バックの右 CB に入れる」というものです。これにより、アトレティコのハイプレスは機能不全を起こすことになったのです。
CB が2人なら、2トップでプレスをかけることでボール奪取できる可能性は高くなります。事実、マドリードの第1戦はその状況となりました。
同様の事態を避けるために「3バックを選択すること」が予想されており、「アンカーの選手(= ピアニッチ選手)が1列下がる」か「サイドバックが中に絞る」かが定石です。ただ、一般的な手法であり、相手側には「守備戦術を変更しやすい」という利点がある状況でした。
おそらく、「カセレス選手が中に絞る形での3バック」なら、レマル選手がカセレス選手にプレッシャーをかけるために前に出ていたことでしょう。しかし、アッレグリ監督は「エムレ・ジャン選手が1列下がる」という形を選択しました。
これにより、最終ラインでは「(最低でも)3対2」とユベントスが常に数的優位を保持し、「ピアニッチ選手が “フリーの状態で” 前を向く」というアトレティコにとっては予想外の展開を作られることになったのです。
3:“中盤でも数的不利なアトレティコ” は「守備ラインを下げる」しか選択肢が存在しない
ピアニッチ選手に中盤でボールを持たれると、4人の MF で守るアトレティコは数的不利な状況に陥ることになります。しかも、「MF がピアニッチ選手のチェックに行くと守備ブロックが崩壊する」という “おまけ” が付いてきます。
中盤は「5対4」でユベントスが数的優位ですから、守備側はボールホルダーに対してチェックに行くことはありません。戦術的にタブーだからです。
もし、ロドリゴ選手がチェックに行くと、マテュイディ選手がフリーになるため、コケ選手が中に絞るでしょう。そうなると、大外のスピナッツォーラ選手がフリーになり、ここに展開されると一気に前進されます。
ベルナルデスキ選手を見ているサウール選手がチェックに行っても、事態は悪化します。
ベルナルデスキ選手が “浮く” のですから、DF と MF のライン間でボールを引き出したベルナルデスキ選手に前を向かれてしまいます。マークに行けるのはファンフラン選手ですが、持ち場を離れてしまうとカンセロ選手が走り込んで来るため、自重せざるを得ない状況なのです。
その結果、守備ブロックを下げるしか選択肢がなく、自陣に釘付けされる結果になったと言えるでしょう。
4:アッレグリ監督の変則3バックにシメオネ監督が対応できなかった理由
スペインにも「3バックを使うポゼッション型のチーム」は存在します。ベティスがその代表例ですが、ベティス戦では通用する戦術がユベントスには通じない “仕掛け” が施されていたことが大きいと言えるでしょう。
- 3バック:
- ビルドアップは 3-5-2 で行い、攻撃中はエムレ・ジャンが3バックに残り続ける
- アトレティコのカウンターは 3CB とピアニッチで対応
- 4バック:
- アトレティコがポゼッションで押し込み、カンセロが DF ラインにまで下がると「4バック」にスイッチ
- 4-3-3 は基本的にダミーで、4-4-2 のブロックで応戦
3-5-2 には「サイドが薄い」という欠点があるのですが、アッレグリ監督はその弱点が露呈する前に4バックに切り替える基準を用意していました。
仕掛けの “タネ” は極めてシンプルですが、それに気づくまでが困難です。エムレ・ジャン選手の立ち位置が「用意された戦術的なもの」か「イレギュラーなものか」を判断することが大前提です。
しかも、試合開始直後にスピナッツォーラ選手が自陣右サイドを突破してエリア内に侵入しているのですから、そちらを最優先で対応しなければなりません。“特殊カード” の2枚がどちらも強烈に機能したのですから、後手に回るのは止むを得ないと言えるでしょう。
5:エムレ・ジャンとスピナッツォーラが持っていた “特殊性”
シメオネ監督にとって厳しかったのはアッレグリ監督が起用した2選手が持つ “特殊性” への対抗策がなかったことです。
- エムレ・ジャン
- CB でもプレー可能なインサイドハーフ
→ アンカーが下がるのとは似て非なる形 - フィジカルと走力がある
- CB でもプレー可能なインサイドハーフ
- スピナッツォーラ
- 180cm 台後半の身長を持つ WB
- アタランタ時代はアレハンドロ・ゴメスとのコンビで左サイドを担当
→ 肉弾戦や消耗戦を苦にしない
カゼミーロ選手(レアル)やブスケツ選手(バルサ)が DF ラインに落ちて3バックになることはあります。しかし、その1列前を主戦場にするモドリッチ選手やラキティッチ選手が3バックの一角としてプレーすることは想定外で、対抗策はマンマークぐらいです。
一方で、190cm 近くの体格を持つスピナッツォーラ選手も稀有な存在です。しかも、ガスペリーニ監督のアタランタで左 WB として評価を一気に高めた選手であり、アトレティコの肉弾戦を苦にしない選手です。
エムレ・ジャン選手のポジション取りで「ハイプレスが空回り」することになり、左サイドのスピナッツォーラ選手にスペースを与えると「フィジカルで DF ラインを突破される」という事態を招くことになったのです。
選手の能力を戦術で最大限に活かし切った上で、アトレティコ・マドリードの強固な守備ブロックを崩し切ったのですから、アッレグリ監督も高く評価されるのは当然のことでしょう。これで去就騒動も沈静化すると思われます。
窮地から生還したユベントスが準々決勝以降でどのような戦いぶりを見せるのかに注目です。